感染対策Q&A

令和3年8月25日(水)、岩手県薬剤師会の主催の令和3年度 非常時・災害対策に関する研修会(テーマ:新型コロナウイルス感染症対策 薬剤師が知っておきたい知識、そして今後)を開催しました。今回、この研修会で寄せられた質問についてQ&Aを作成しましたので、参考にしていただければと思います。
なお、今後も会員の皆様からの新型コロナウイルス感染症対策に関する質問にお答えする予定ですので、岩手県薬剤師会事務局にメールでお寄せいただきますようお願い申し上げます。

岩手県薬剤師会事務局メールアドレス : ipa1head@rose.ocn.ne.jp

回答者:岩手医科大学附属病院 感染制御部 副部長
(感染制御専門薬剤師)小野寺直人

【子供たちへの感染症の教育・ワクチン接種に関すること】

Q1. 学校において実施した感染対策研修会で、子供たちに対する手洗い、消毒の実施が増加し、感染症の減少に繋がったと思いますが、子供たちへの「感染症そのもの」の説明は、どのように行っているのかもう少し詳しく教えていただければ幸いです。
また、学校ということで、教員への教育や、保護者への説明についても、工夫されていることがあれば教えていただきたいと思います。
A1. 小学生の低学年、高学年、中学生と内容を変えてお話ししています。小学生には、「コロナウイルスとは」からはじまり「どのようにうつるのか」、「その対策は?」の3部構成にしています。アニメや動画を取り入れて、NHK作成した資料や理化学研究所小中高生向コンテンツを利用してわかりやすく説明しています。中学生には、感染症の歴史やヒトで流行する感染症の特徴について、また、感染症に伴う差別なども追加しています。
教員への感染対策の教育までは至っていません。先ずは子供たちの教育を理解してもらうことから始めています。子供たちへの感染症対策に関するレクチャーやキャンペーンの内容について、教員向けに報告会を行っています。保護者への説明は行っておりませんが、保健だよりの作成時に感染症対策を取り入れてもらっています。
Q2.これから子供たちへのワクチン接種が進んでいくと思いますが、どの程度推奨されているのか。
また、子供たちや保護者、学校関係者に対して、ワクチンの効果や副反応のことについてどのように説明していくべきか、教えていただければと思います。
A2.厚生労働省の見解を引用いたしますが、現在時点での推奨年齢は以下の通りです。
接種の対象は、接種の日に満12歳以上の方です。このため、12歳に満たない方は、新型コロナワクチンの接種の対象にはなりません。なお、接種の対象者は、現時点の科学的知見に基づいて決められており、日本においても、今後、接種の対象年齢が広がる可能性があります。ファイザー社及び武田/モデルナ社の新型コロナワクチンは、海外で、生後6ヶ月~11歳を対象とした臨床試験も実施されています。
日本小児科学会は、「現時点で変異ウイルスが子どもに感染した場合も、従来ウイルスより重症化する可能性を示す証拠はなく、多くが無症状から軽症で経過している」との見解を示しています。
12歳から15歳の子供のワクチン接種については、短期および長期的副作用に関する知見が十分ではなく、また子供たちの重症化はまれであることから、基礎疾患を有する子供に限定するなど、ワクチンのリスクとベネフィットを考えた選択となるのではないでしょうか。ワクチンに関する現時点での知見を加味しての説明になるかと思います。

【新型コロナウイルス感染症の検査に関すること】

Q3.抗原検査キットが市販されているが、効果は期待できるものでしょうか?
抗原検査キットで検出されなければ感染していないと考えてよいでしょうか?
A3.新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第5.2 版によりますと、抗原検査は,SARS-CoV-2の蛋白質を検出する検査法で、有症状者(発症から9日以内)の確定診断として用いることができます。症状がある場合は有用とされていますが、無症状の場合は使えません。一方で、感度の問題から、陰性でも必ずしも陰性とは限らず、間違った判断につながります。なお、市販品では、その精度には幅があり、注意が必要です。
抗原検査キットを使用することは問題ありませんが、陰性でも真の陰性ではないことを認識し、陽性になったら速やかに保健所に連絡することが重要です。

【ワクチン接種に関すること】

Q4.ブレイクスルー感染について、日本でも半年後くらいにまたワクチン接種し、その後毎年ワクチン接種することになるのでしょうか?
A4。2回のワクチン接種を完了しているにもかかわらず新型コロナを発症した人が、国内外で報告されています。ワクチン接種後の抗体価が減少する報告がありますが、現時点での追加接種についての明確な方針が決まっていません。3回目の接種は海外で検討されていますが、今後も引き続き、集積される様々なデータを見ていく必要があります。
Q5.ワクチンについて、患者さん(特にご高齢の方)から「自分はワクチン打ったから大丈夫だ」という言葉を耳にします。今後接種率が向上し、重症化リスクは軽減されて来ると考えられますが、当然ワクチンを接種しているであろうコロナ病棟担当のスタッフから感染者が出てしまった、との報道や、ワクチンの発症予防効果88%から外れる方々等発症をゼロにはできないのが現実です。
そこで、一般の方々へ指導する際に、ワクチン接種後の発症率等、このことを示すためのデータや、接種後の感染対策の必要性について、改めてアドバイスをお願いします。
A5.厚生労働省の見解を引用いたしますが、現在ところは以下の通りです。
ワクチン承認後に実施された様々な研究結果から、ワクチンを接種することで、新型コロナウイルス感染症の発症を予防する効果も示唆するデータが報告されています。しかしながら、その効果は100%ではなく、ウイルスの曝露量によっては発症しますし、変異によりワクチンの効果に影響が生じる可能性もあります。したがって、ワクチンが普及し、感染者数を十分抑えることができるまでは、引き続き効果的な感染予防対策を組み合わせることで、可能な限りご自身や周りの方を守っていく重要性を、繰り返し説明するしかありません。

【薬局での感染対策について】

Q6.薬局内を消毒する際、不織布を使用していますが、どのようなものを使うのが良いのでしょうか?
A6.新型コロナウイルスはエンベロープを有するウイルスで、消毒用アルコールの他、次亜塩素酸ナトリウムや第四級アンモニウム塩も効果的です。また、速効性があって環境整備に使用しやすい消毒用アルコール含有の環境清拭クロスがいいと思います。広範囲であると、次亜塩素酸ナトリウムや洗浄効果もある第四級アンモニウム塩含有のものが望ましいと思います(あまり触れない場所は日常の清掃で十分です)。
なお、市販品ですと、効果に差があるので、医療用を使用することをお勧めいたします。
Q7.薬局に、「二酸化炭素モニター」を設置したほうが良いでしょうか?
A7.厚生労働省:空気調和設備等の維持管理及び清掃等に係る技術上の基準では、二酸化炭素濃度が1,000ppm以下を推奨しております。薬局は狭い空間のところが少なくなく、定期的に測定し、換気するタイミングの参考にすることをお勧めいたします。
Q8.薬局に、空気清浄機を設置する場合に、気を付けることがあれば教えてください。
A8.空気清浄機は、実験室でのデータとして確かにウイルス除去を可能としますが、臨床的な明確な根拠は見当たりません。過信しないで、換気を行うことをお勧めいたします。

【学校での感染対策について】

Q9.秋は文化祭や学習発表会の季節となります。本来であれば、児童生徒がみんなで元気よく声を出す、という場面があるわけですが、現在の状況では、どのようにすべきでしょうか?
A9.子供たちの教育に文化祭や学習発表会は必要ですが、新型コロナの発生状況によっては、開催を縮小したり、実施する感染対策を明確にするなど、慎重な対応が望まれます(屋内で飛沫が発生する合唱などはリスクが高いため)。
例えば、岩手県緊急事態宣言中は参加者を児童や生徒のみにする、不織布のマスクを着用させる、入退場時にアルコール手指消毒する、学年ごとの接触を避ける、会話を慎む、頻回の換気を行うなど、きめ細かい取り決めが必要です。
Q10.小学生のうちに感染症に対する知識を高めておくことが必要だと思います。ICATとして作成されている資料はありますか?ない場合、ICATと薬剤師会が、共同で、児童生徒用向けの資材を作成してはどうかと考えますがいかがでしょうか?
また、薬物乱用防止講座のように学校薬剤師が、手洗いの実技を含めた講座をもつことは、子供たちの大きな利益をもたらすと考えますがいかがでしょうか?
A10.ICAT活動では、現在、新型コロナ感染症が多発した医療機関を対象に指導を行っております。学校等へはまだ活動しておりません。今後、ぜひ検討したいと思っております。また、子供向けの感染症講座開設は非常に重要で、今後も起こる得る新型コロナウイルス感染症のような新興感染症が発生に対し、早い段階で感染対策の重要性や手洗いのタイミングなど、しっかり学ぶべきと考えます。

【引用文献】

引用文献一覧
新型コロナワクチンQ&A特設サイト:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00222.html

新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第5.2 版:
https://www.mhlw.go.jp/content/000815065.pdf

一般社団法人日本感染症学会 ワクチン委員会 COVID-19 ワクチンに関する提言(第 3 版)
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2107_covid-19_3.pdf

日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会. 小児における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の現状と感染対策についての見解.
http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=369. Accessed 2021.

厚生労働省 建築物環境衛生管理基準について:
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei10/

感染対策Q&A(20200529)

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、会員薬局から寄せられた問い合わせ等について、Q&Aを作成しました。なお、今後、随時更新していきたいと思いますので、新型コロナウイルス感染症対策に関する質問がありましたら、岩手県薬剤師会事務局にメールでお寄せいただきますようお願い申し上げます。

【薬局内患者スペースの関すること】

Q1 待合室のスペースが狭く座席数が多くないため、患者同士の適切な距離を取ることができません。どのような工夫がありますか?
A1 待合室が狭い薬局も少なくなく、感染対策にも限界があると思われます。
一方で、共用物品や不必要なものの移動によるスペースの確保や感染のリスクに応じたゾーニングが必要です。なお、定期的に換気を行うことも効果的です。
また、患者およびスタッフの感染対策を強化することで感染リスクを減らす方法についても
ご検討ください。
【感染対策例】
①患者間へのパーテーション設置。
②発熱や呼吸器症状のある患者の分離。
③病院からの発熱呼吸器症状のある患者情報の提供とお薬の郵送。
④車でお待ちいただく。
⑤薬局入り口での手指消毒の励行やマスクの提供。

【消毒薬やマスクに関すること】

Q2 薬局内の消毒は、何時間おきに行えばよろしいでしょうか?
A2 薬局内の環境消毒を行う頻度に関する明確なエビデンスがありません。
むしろ高頻度接触面の消毒が必要で、消毒する場所を決めて行う方が効果的であると思われます。なお、病院内において耐性菌が検出されている患者の病室の環境表面の消毒は1回/日以上が推奨されており、新型コロナウイル流行期間は、少なくとも薬局終了時には行った方がよろしいと思います。
Q3 環境表面の消毒にはどのような消毒薬や消毒法が適していますか?
A3 消毒用アルコールや次亜塩素酸ナトリウム(0.05%程度)を用いて、清拭消毒を行います。なお、消毒薬噴霧は、効果的にも吸入毒性の点からも推奨されません。
Q4 新型コロナウイルスの流行期の常時マスクは必要なのでしょうか?
A4 通常マスクは、呼吸器症状がある場合に装着するとされています(咳エチケット)。
一方で、新型コロナウイルス感染者では、症状出現2⽇ほど前から症状出現直後にかけて、咽頭でのウイルスの増殖がみられ、感染の可能性が指摘されています。そのため、無症状あるいは症状が軽微な患者さんからの感染を防ぐために、患者さんへの説明を行う薬局内ではマスクの装着が推奨されます(ユニバーサルマスキング)。

【患者対応に関すること】

Q5 患者さんのなかには感染対策の意識が低く、せきやくしゃみがあってもマスクをせず、手の消毒もしない方が多く困っています。
A5 患者さんに協力いただくための工夫が必要かもしれません。
予め、問診票にて症状の有無を確認し、症状がある患者さんには、スタッフ側からマスクや消毒薬を提供することが望まれます。また、新型コロナウイルス対策に関するビデオや録音したアナウンスでの啓発が効果的です。

【人材に関すること】

Q6 新型コロナウイルス感染症が発生した場合に、職場内での濃厚接触者として隔離されるため、病欠などで職員が休んだ時などの関連薬局間で行き来はしない方がよろしいでしょうか?
A6 新型コロナウイルス感染症の流行時、理想的には行き来を避けた方が望ましいと考えます。
業務が成り立たない可能性がある場合は、移動するスタッフを固定化するなど、工夫が必要です。また、地域で発生した場合の応援体制など、地域の薬剤師会で構築することも大切かと考えます。

【参考資料】

参考資料一覧
1)⼀般社団法⼈ ⽇本環境感染学会:医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第3版
http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/COVID-19_taioguide3.pdf

2)国立感染症研究所、国立国際医療研究センター 国際感染症センター新型コロナウイルス感染症に対する感染管理 改訂2020.4.27
https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/corona/2019nCoV-01-200427.pdf

3)WHO Rational use of personal protective equipment for coronavirus disease (COVID-19) and considerations during severe shortages
https://www.who.int/publications-detail/rational-use-of-personal-protective-equipment-for-coronavirus-disease-(covid-19)-and-considerations-during-severe-shortages

4)CDC Decontamination and Reuse of Filtering Facepiece Respirators
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/ppe-strategy/decontamination-reuse-respirators.html
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